ヒトゲノム・遺伝情報

ヒトのゲノムを調べることによって、どういうメリットがありますか?また、なにか困ったことが起きますか?

ゲノムは、「生命の設計図」ともいわれるように、生物のからだの外形や機能に関する多くの情報を持っていると考えられています。また、進化や先祖についての情報や、血縁関係の情報も保持しています*1。ヒトのゲノムを調べてそれらの情報を読み出すことができれば、個人や社会の利益のためのさまざまな用途に使うことができると期待されています。

大きな期待が寄せられているのは、人の病気が起きる原因の解明や、その治療法の開発です。特に最近では、個々人のゲノムの非常に細かな違いに注目して、精密に診断を行う試みが行われています。その他にも、健康関連の体質予測、親子鑑定、刑事鑑定のための個人識別などに利用されています。

困ったこととしては、そのような情報を悪用されることが考えられます。つまり、知るべきでない人が、個人のゲノム情報や診断情報を入手することによって、その個人に対して不当に不利な扱いをする可能性です。例えば、病気にかかるリスクが平均より大きいと予測された個人に対して、就職などの社会的機会が不当に狭められたり、親子などの血縁関係について不必要な鑑定が行われることによって、子どもや親などに対して権利の侵害が起きたりすることが考えられます。

ゲノム情報の利用に期待が高まっていると同時に、サービスを提供する側からは、上の述べたような病気や体質、個人の能力や家族関係といったことについて、ゲノムでのみ規定されているかのように教唆されてしまうことがあります。ゲノムだけで決まっている事柄は無いということに、一人一人が注意しておくことが大切です。

不利益を減らし、最大の利益を得られるようなゲノム情報の利用を、社会全体で考えていくべき時にきていると言えるでしょう。

 

*1 文部科学省 ライフサイエンスの広場 生命倫理・安全に対する取組 ヒトゲノム研究のウェブサイトに、ヒトゲノムに関する説明がありますので参考にして下さい。(下記URL)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kagaku/rinri/hginf628.htm

遺伝情報による差別を心配する声がありますが、遺伝情報がわかることで、どうして差別が生まれるのですか?

遺伝情報からは、その人の体質や、将来病気を発症する可能性を知ることができるようになってきました。そのため、現在は健康な人であっても、将来病気にかかるリスクによって、生命保険に加入できなかったり、雇用や昇進などの場面で不利な扱いを受けたりすることがあります。また、遺伝情報は子孫に受け継がれることがあります。そのため、病気にかかりやすい遺伝子を持っていることがわかれば、結婚のときに差別されるかもしれません。また、遺伝情報の一部は血縁者間で共有されるため、本人だけでなく血縁者にもこういった不利益が及ぶ可能性があるのです。